幼児教育に関し、経済産業省による平成19年の報告書

出典:localbusinesssearch.com.au

幼児教育関連の報告書について

幼児教育は、直接教育に関係する文部科学省だけでなく、この国の経済にも大きく関わるということで、経済産業省からも様々な研究や報告がなされています。

平成18年10月より、産業構造審議会基本政策部会では経済成長と格差の固定を防ぐ公平性に関して、幼少期から青年、高齢期と、国がどのように関わりながら成長を目指していくべきかを検討してきました。幼児教育も議題の一つに含まれています。

参考:
産業構造審議会基本政策部会報告書

ここでは、平成19年に経産相が公開した『経済成長と公平性の両立に向けて』という産業構造審議会 基本政策部会の報告書の中で、幼児教育に関連する部分を抜粋・要約いたします。

参考:
PDF:『経済成長と公平性の両立に向けて』

幼児教育に関係するのは第二節

この報告書では、長らく経済成長が停滞し、急激に少子高齢化が進む日本経済の見直しを考える上で、金融や資本市場、労働市場、社会情勢など様々な角度から現在の状況を捉えて、解決・改善のための提言がなされています。

幼児教育に関係するのは第二節。

第二節では、経済成長を目指すのは大前提でありながら、貧富の差が世代間にわたって続いてしまう”格差の固定化”を防ぐ事も考えに入れ、幼少期、青年期、社会人、高齢期と人生を4つのステージに分けて検討しています。

幼児教育の重要性

幼少期での幼児教育で重視されているのは、基礎能力の充実です。
基礎能力というのは、何か特別な事を成し遂げる技術力や技能ではなく、より汎用的で多くの活動に必要となる普遍的な力のことを意味しています。
教育機会を均等にしていくことは、貧富の差が世代間にわたって続かないようにするために必要になります。教育機会が均等でない場合、技能や能力に偏りが出る可能性が出て、時代の変化に対応が難しい大人になってしまうかもしれないわけです。

ただ、現状では日本の公教育では基礎学力の低下や、理数系を嫌う子供の増加、塾などの学外教育の格差などが広がってきています。教育再生会議第一次報告において、いわゆる「ゆとり教育」の問題も指摘され、保護者の所得格差がそのまま子供の学力格差に繋がる事が心配されています。

また、日本が経済成長の停滞から脱却し、成長軌道にのせるためには、幼児教育において基礎学力の向上だけではなく、学校間の格差も無くしていく必要もあります。たまたま入った学校によって、受けられる授業等の量や質が大きく異なり、それによって成長の度合いが変わってしまうのは好ましくありません。
さらに、なぜ勉強をするのか、学んだ事が将来何に活きるのかがあまり理解されていないという指摘もあります。これを解決するためには、公教育だけではなく民間の教材や教育法を活用するなど、様々な外部の力も取り入れていく必要もあります。

人的資本論に基づいた研究によると、同じコストを投じると仮定した場合、より早期の教育の方が後期の教育に対して効果が高いという結果が出ています。アメリカで実施された調査では、幼児教育を受けた子どもと幼児教育を受けていない子どもを比較した場合、将来得られる賃金が上昇し、犯罪率は減少するといった報告がなされています。

(出所)図:Carneiro, Pedro and James J.Heckman[2003], “Human Capital Policy”, in Heckman, James J. and Alan B.Krueger eds. Inequality in America: What Role for Human Capital Policies?, The MIT Press.
表:Psacharopoulos, George and Harry Anthony Patrinos[2002], “Returns to Investment in Education: A Further Update,” World Bank Policy Research Working Paper, No.2881. より抜粋

最近の子どもたちは学力面での低下だけでなく、社会性という面でも問題が増えているという指摘もあります。この背景には、

  • 少子化が進み、兄弟や従兄弟など同年齢以外と交流する機会が減った
  • 核家族化などが影響し、地域での教育や育児サポート力が減少
  • 共働き家庭が増え、家庭内での親子の役割が変化

といった事があると言われています。
それに対して幼児教育のやり方や社会システムが従来の社会環境を想定して作られており、変化に適応できていない可能性があるために、虐待や子どもの発達に良くない影響をもたらしているかもしれません。

別の研究によると国語力や算数力などの基礎的な認知能力だけではなく、忍耐力や社会性など知識だけでは測れない非認知能力も、大人になった時の収入や行動に影響を与えているという報告がなされています。
こうした非認知能力は幼少期の教育によって身につけていくため、幼少期に必要な力が獲得できていないと、青年、成人となってから国の介入によって改善をしようとしても、大きなコストとなっていまいます。

以上のような問題を解決するために、より早期のタイミングでの教育によって基礎能力の向上がなされれば、それ以降に様々な技能・技術を獲得することにつながっていくために、格差の伝承も解消されていくことが考えられます。こうした効果は、個々のスキル向上だけではなく、賃金の上昇や公的援助の減少など、社会全体としても大きなメリットが生まれます。

日本に限らず、他の先進国でもこうした幼児教育からの支援を強化するという流れは広がっており、英国では「シェアスタート」と呼ばれる育児サービスの総合化を目的とした国家プロジェクトも進められています。
日本ではまだ早期教育に対しての公的な支援水準は他国と比べると低い水準のままになっているため、今後は高等教育や大学教育などの後期の教育につながる水準までの基礎能力を向上させる支援が必要になってきます。

幼児教育に関しての提言

これらの背景をふまえ、『経済成長と公平性の両立に向けて』という報告書では幼児教育に関して次のような提言がなされています。

幼児教育の充実など幼児期への投資は、それ以降の後期教育への投資に比べて費用対効果が高いことを考え、幼少期の基礎能力向上と、そのための施策の充実、公平な機械の提供を進めていく。そのために、各施策の連携や、公教育に限らない民間の資源の活用などで効果を最大化し、政府も積極的に関わることで、基礎能力を最低水準まで高める事を目指す。
これらのプロジェクトを仮称として日本版「シェアスタート」、平成寺子屋プログラムと呼ぶことにする。

なおこのページでは取り上げませんが、第一節では経済に関する課題や中長期的な時間軸での議論に関して、第三節ではライフステージを超えた視点での調査がまとめられています。